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 神奈川県とは、共に目ざす方法と取引き条件が合意できましたので、進み始めました。いま、岩手の糸が大手商社を通して、話と糸サンプルが来ています。滋賀県の糸と織物も、人を通して話が来ました。 今後もこの件のお話は、私のような個人でやっている所にさえ来ると思います。その要望にすべて応えられるほど、私の糸の需要はありません。また、中国天蚕糸には供給の余裕があり、いつでも、一〇s 単位で輸入が可能な状態です。繭生産・糸生産にかかわっておられる各産地の方は、この現状を正しく認識して、事業をすすめていただきたいと思います。


7. 天蚕糸と織物

(イ)染色用生地の用途
 繭生産者の方、指導されているセンターの方々に、その糸の用途を尋ねるのですが、その答えはほとんど期待できません。
 糸自体の流通がないに等しく、また、製品である織物は、まず目にす機会のない特別な織物か、機会があっても、天蚕だと気付かない使い方のどちらかです。
 そして、そのほとんどの糸使いが、穂高の糸も含め、後者の使い方です。京都の丹後地方の織物、縮緬の中では付加価値の高い高級縫取り縮緬のごく一部に使用されています。縫取り縮緬は紋織で刺しゅう のような感じの紋様を織り出し、後染めする白地の織物です。家蚕との染色性、光沢のちがいを生かし、生地を染色した時、その縫取った紋様が浮くような感じを表現するために、紋織りの縫取りの縫取り糸 に天蚕糸を使います。
 染色前の生地と染色後の生地をご覧になり、あの緑色のイメージで生地を見られたら、天蚕糸がどこに使われているか、ほとんど判らないといってよい天蚕の使い方です。
 あまりの高価のため一g単位のわからない程度しか使えない現実があります。そこにあるものは、天蚕糸の本来持っている糸の特徴ではなく、「繊維のダイヤモンド」という糸が入っているという事だけです。
 縫取り用の糸の場合、ねん糸の必要はありません。縮緬は糸を未精錬のまま製織した後、生地の状態で強い精錬を致します。したがって、精錬後の生地には、天蚕糸の緑色は全く残りません。この使い方で ある限り、繰糸で緑色にこだわる事など、全く意味がないのです。緑の繭、緑の美しい糸というイメージが、繭、生糸生産者、消費者の方にはあります。でも、今の精錬であるかぎり、緑色を生かした織物は 全くといってないのです。ここにも天蚕の織物が一般の方達に知られない一つの原因があると思います。
 色の事はともかく、一反の着物に一〇〇g単位で、もし天蚕が使えるようになった時、はじめてその着物に天蚕のかがやきが表れると思います。そのカギはやはり糸単価にあると思います。

(ロ)ねん糸の方法
 白生地使いの場合は、ねん糸工程が不要でしたが、先染めの織物の時にはねん糸が必要です。先染めでの天蚕糸使いは、タテ・ヨコ一〇〇%とか、ヨコ糸だけ一〇〇%とか、タテ糸だけ一〇〇%とか、織りあげ られる総数は少ないですが、一反あたりの使用数量は多く、その良さを一番生かせる織物です。縫取り縮緬が白生地の中では高付加価値商品ですが、やはり染色されて製品にされるための中間商品といえます。