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(ニ)大枠揚返し(綛揚機 かせあげき)
 繰糸され小枠に巻き取られた天蚕糸を一・五Mのカセ糸にする綛揚機は、高価な糸だけに完璧でなくてはなりません。昔のもので不完全なものや、構造的に問題があるもの、 鳥取や岡山の一件はそうなのですが、改良の余地が大いにあります。その点、蚕業センターで綛揚げされる神奈川などは、全く問題は有りません。
 また、それを小型に改良し、モータを付けた岡山の例などは、個人の方が繰糸した糸をすぐ綛揚機で巻き取り、大枠にて糸を乾燥させれば、理想的になります。
 その時に、回転計が付けてあれば、デニール計算ができ、品質の向上がはかれます。ひびろ糸(綛の解じょを容易にするため、一綛を小分けにして、綿糸を軽く括ったもの) を少しゆるい目に入れて、糸をひねれば、天蚕生糸原糸が、できあがります。


6、繭と糸の流通

(イ)繭の流通
 繭の流通は、ほとんど決まった流れでしかありません。その理由は、次の繰糸する専門の繰糸家が穂高以外にほとんど存在しないからです。繭販売先は穂高しかないと言えます。 一部、信州の繰糸経験のある織元さんが、自家用に購入されるぐらいです。
 したがって、これだけ各地で天蚕飼育がすすんでいる現状では、いずれ繭生産だけでは行きづまります。それを打開しようとする動きが蚕業センターなどの指導のもとではじめら れている繰糸であり、糸販売の試みです。この動きは全国各地の動きであり、その糸はいずれ穂高の糸と競合する事になります。

(ロ)糸の流通
 糸の流通は、本当に特殊な形です。市場という規模でない事は、その生産量からもいえます。繭や糸の生産にかかわっておられる方達は、製糸業というより、農家であり、農協で あり、試験場であり、センターです。そこに製糸業が存在し、糸商社を通じて織物業に流れる家蚕と同じ機構では、流れにくい糸です。
 したがって、農協や経済連合会、県のセンターを通じての特殊なルートで特定の織元や商社に流れます。  現在のところ基本的には家蚕糸のように一般の糸商間で流れるという糸ではありません。天蚕糸を使用する織物は、いまのところ縮緬の縫取りや刺しゅうといったものの内、ごく 限られたものでしかありません。
 その一反あたりの使用料は、本当にグラム単位の少ない糸量です。糸単価は大変高いのですが、取り扱える数量が極端にすくない事と、総流通量もごく限られた量ですので、今の ところ糸商が本気で取り扱う糸ではありません。生産量が飛躍的に伸び、使い易い価格になり、織物用途の開発がすすみ、織物用の需要が伸びる可能性が見えた時、はじめて流通市場にのる糸になります。
 しかし、現状はそうではなく、着物そのものが拡大というより縮小しています。その中で、努力は必要ですが、天蚕糸の需要が拡大しているとは思えません。反面、天蚕の繭生産・ 生糸生産は全国に広がりました。その需要バランスは、急激な需要拡大がないかぎり、すでにくずれていると思います