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(ニ)繭の選別
 天蚕は野生のため、その時の環境により繭の大小、繭層の厚さ、色などのちがいが、きわだってあります。次の繰糸を容易にするため選繭(せんけん) をして、選除された繭の別の方法を考えて、トータルで繭価格を考えなくてはいけないと思います。まだ実用にはなっていませんが、真綿紬糸の試作と、 少しの整織(せいしょく)試験は行ないました。

(ホ)煮繭
 繭はロウ分等が含まれているため、水を通しにくく、糸のほぐれがお湯ではなかなかむつかしい繭です。糸を扱っていまして、天蚕糸と柞蚕糸(さ くさんし)は非常に糸質が近いと思います。中国の柞蚕糸の繰糸には、解じょ剤をうまく使っているようです。この事を参考にして天蚕の場合も、 何らかの解じょ剤を使用しての煮繭方法の研究がまたれます。


5、天蚕繭の繰糸(製糸)について

(イ)繰糸本数
 繭生産のためのくぬぎ畑や幼虫飼育は、問題は多くあるものの、農業試験場や蚕業センターの指導で繭生産を拡大する事は、どの県でも最近は比較的う まく進んでいるようですが、その中で一番おくれているのが繰糸だと思います。
 繭生産農家が糸を繰糸する場合、ほとんどが糸という物にさわった事が初めての方達といって良いと思います。最初はデニールという太さの感覚も、ほと んど理解されません。岡山の個人の方の糸などは、七粒引きだという事だったのですが、検査の結果、十四粒で引けていました。また、何粒引きが適当か という事も糸を使用する織物業との接点が全くないため、わからないというのが現状で、鳥取での最初の糸は一〇粒引きでした。その後の我々との交流の 結果、五粒引きも試験しましたし、その後は八粒引きの繭落ちを計算に入れて、七・五粒引きでの太さになっています。
 その点、蚕業センターで直接繰糸試験をしているところや、指導をうけているところは、穂高と同じ七粒での四二デニールを目標に繰糸されています。

(ロ)繰糸機
 繰糸は座繰機やそれを改良したモーター式の座繰機で、鳥取をはじめ岡山二ヶ所、千葉県蚕業センター、神奈川県蚕業センターのを見ましたが、どこも、 家蚕繰糸と同じ繰糸の考えかたで、県の方が指導されています。
 家蚕とは組成、繊度、セリシン率、解じょ性などが大変ちがっている糸なのに、家蚕生糸の繰糸方法で、家蚕生糸の糸評価をしているところに、繰糸上の 一番の問題があるのではと、鳥取へ同行していただいた染織研究家の小谷次男さんと私の意見は一致しております。
 鳥取、千葉、神奈川はタテ引き、岡山はヨコ引き、その内一件は玉糸座繰機を工夫したものです。タテ引き、ヨコ引きのちがいはあるものの、すべて の所で洋式の撚りかけ方法であるケンネル撚りをかけて、家蚕と同じように抱合のよい丸糸を作る努力がなされていました。また、緑色も大変重要視されていました。