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野  蚕


人が飼育に手をかける事があっても、文字通り野生を持った蚕で蛾は野を飛び回ります。食樹も桑だけでなく、クヌギ・カシ・ナラ等様々で、その仲間には柞蚕・天蚕・ムガ蚕・エリ蚕などが有ります。 野蚕は品種改良を受けていない為に、家蚕と比較して一般的に吐糸能力が低く、一つの繭から得られる絹糸は 500 m 程度です。(家蚕では 1,500 m 程度)この為一般的に産業利用されている絹糸は、家蚕により生成された絹糸 ですが野蚕由来の絹糸も「希少性を持つ絹糸」として流通しています。

「柞蚕(サクサン)」

タッサーシルクと呼ばれ、中国産のシナ柞蚕とインド産のタサール蚕がありますが、日本の市場で流通しているのは中国柞蚕です。その糸の作り方で、水繰糸(すいそうし)・葯水糸(やくすいし)・大條糸(だいじょうし) 等 と呼ばれ、素朴な手紡ぎの味を残し手織りの人達にとり面白い糸と言えます。クヌギ・コナラクリ等を食べ、繭色は、枯葉色の淡褐色もしくは茶褐色をしています。繭の天然色(緑・黄色・紅色 等)は、時間と共に色褪せるも のが多い中この茶色の色素は大変強く、精錬だけでは残り、漂白してやっとうす卵色になります。家蚕の代用糸という使い方でしたが、手織りの世界においては実に味わい深く、唯一使いこなせる糸だと思います。 インドのタサール蚕は、基本的に糸では輸入されず、使いこなすには少し厄介な糸ですが、その分素朴さが一層残っていると言えます。

「{天蚕(テンサン)」

ヤママユとも呼ばれる日本原産の野蚕です。日本全国各地で生息し、「緑色の幼虫で、緑色の繭を作る」野蚕です。食樹や糸の特徴は中国柞蚕とほぼ同じです。緑色の糸は、精錬すると僅かに緑を残した美しい黄色の輝く糸で、 その美しさと希少性から「繊維のダイヤモンド」と言われ、その中心地である信州安曇野の穂高では、1Kgの糸単価が70万前後と大変高価な絹糸です。これに近いものは中国より中国産天蚕糸として輸入する事が出来ます。