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5) ヨナグニ蚕(アタカス)
 世界最大の蛾でアピール度が高く、沖縄県与那国島を北限に台湾等、インドネシア等に生息している茶褐色繭の野蚕です。1985年に沖縄県では天然記念物の指定を受け、保護されています。1990年代から、与那国町の町起こし 事業としてヨナグニ蚕の出殻繭を利用して紡いだ糸による織物の試作が始まり、織物組合や地元の染織家が糸作りに取り組んでいますが、未だ実用化には至りません。まず繭の入手が困難で、試験的にも真綿にする事が大変に難しく、次 の真綿紬糸の手紡ぎに行けないのが現状です。

2 絹糸の種類とその作り方

1) 生糸

 養蚕農家で生産された繭(生繭)は製糸工場に持ち込まれます。そこで、繭の中の蛹が羽化する前に殺蛹と長期の保存に耐えるように熱風で乾燥処理し、乾繭して保存します。乾繭を必要量取り出し、選繭し製糸機で繰糸されたものが 生糸の原糸です。製糸とは今では糸類を製造することを指しますが、本来は繭から生糸を取ることでした。繭糸のセリシンがもつ水溶性膠質の特性を利用して、現在では繊度感知器による自動化で目的の太さ(デニール)の糸を製糸工場 では作っています。湯の中で繭を繰糸すると、繭は蚕が吐いた1本の糸(繭糸では2本)に巻き取れます。現在の繭は、1粒は約3デニール・繭7粒平均なら21デニールの糸、9粒なら27デニールの糸になります。蚕が繭糸を吐き始 める最初の頃・中頃・最後とそれぞれ太さや断面の3角形が異なるため、機械で繰糸された生糸も合成繊維のように最初から最後まで太さが1定ということはありません。21デニールの生糸は、21デニールを目的の中心の太さに作っ た糸なので、取り引きでは21中と呼んでいます。規格生糸としては21中・27中・31中・42中ですが、それ以上の60中や100中の糸、繭の条件が悪いため太くしか繰糸できない赤城の節糸などもあります。均1性や規格性と いう点では問題ですが、用途によっては昔ながらの座繰り糸の素朴な味や風合いを持った糸として、手織りの世界には貴重な糸だといえます。
 繭には1頭の蚕が作った正繭と2頭以上の蚕が1つの繭を作った玉繭があり、生糸は正繭で製糸した糸のことで、本糸ということもあります。また生 糸という呼び方はセリシンが付いた状態の「生の糸」という意味と、精練された糸「練り糸」に対する言い方でもあります。正繭や玉繭の中には、繰糸できない穴あき繭・蛾が出た後の出殻繭・汚れ繭などの不良繭や製糸工程での生皮苧 や比須(びす)・屑糸などがあり、それらを総称して「副蚕糸」と呼んでいます。副蚕糸は紡績絹糸や真綿紬糸の原料として使用され、繰糸されてできる糸とはまた違った別の絹糸の世界があります。