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1 家蚕と野蚕



絹糸の素は繭です。繭は、昆虫である蚕が、卵―>幼虫―>蛹―>蛾と変態していく過程で、羽化する前の自分自身を守る家として作ったものです。その繭を人間が色々な方法で繊維状にした物が絹糸なのです。絹を作る昆虫全般を絹糸虫と呼び、家蚕と野蚕の二つに大きく分類する事が出来ます。

家蚕は、主に屋内で人間が桑の葉を与えて育てる蚕種です。養蚕の主役として、飼育し易く、より多くの糸が得られる様に繭を大きくと、品種改良を重ねて来ました。また、本来は桑しか食べないのですが、人工飼料による飼育研究も進められて一層の省力化が図られています。かつて、重要な輸出産業として日本の経済を支えていた絹ですが、中国にその座を奪われ、今では昔の面影は有りません。家蚕にも黄繭・緑繭糸・紅繭糸等の蚕種が有るのですが、一般に目にするのは白繭がほとんどです。我が国の蚕品種は、その両親の良さを受け継ぐ一代雑種の繭が中心となります。実際には、錦秋×鐘和・芙蓉×東海などという蚕種名も有りますが、それを表示する事はめったに有りません(前が母親、後が父親)。野蚕は、飼育に人間が多少手を加える事が有りますが、文字通り野生の蚕です。食樹には、桑以外のクヌギ・カシ・ナラ などを食樹し、その仲間には柞蚕・天蚕・ムガ蚕・エリ蚕 等が有ります。


@ 柞 蚕(サクサン)

野蚕と言えば、この柞蚕を指す事が多くタッサーとも呼ばれています。主に中国とインドで飼育されています。中国産は「シナ柞蚕」、インド産を「タサール蚕」と呼びますが、繭の形状が若干異なります。中国柞蚕は、市場で流通し、今までは家蚕糸を代用する価格の安い絹糸として取り扱われてきました。近年では、野生の蚕という事もあり生産量が安定しない為、需給バランスが崩れ易く相場が上昇し、1996年の国債相場では家蚕より高くなりました。生産量の減少が価格高騰の主な要因ですが、世界的にナチュラル志向の染織品が好まれるようになった事も要因の一つになります。

繭の色は、茶色もしくは茶褐色、繭繊度は家蚕の約2倍の5〜6デニール、繭糸の長さは五百b程度と現在の家蚕に比べて二分の一以下です。繊維の断面は、非常に扁平な三角形で金属的ともいえる強い光沢があります。また、中国柞蚕のセリシン率は、約9lで、家蚕25lに比べて大変練り減り率の少ない絹繊維と言えます。

家蚕の有色繭や天蚕の色素は、時間と共に色褪せ精錬によって色素が抜けるものがほとんどです。然しながら、このタッサーの茶色は例外で過酸化水素を使用して漂白する事で薄いベージュもしくは白に近い色になります。