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「織の技術」

綜絖(そうこう)
織物を作成する時に大事な物は、綜絖(そうこう)です。綜絖とは、織機の装置でもあり、その装置のための作業の名称です。 綜絖は、たて糸とよこ糸が織られていく時に、たて糸を引き上げ、よこ糸を通すアキをつくるための装置です。 引き上げられたたて糸と、引き上げられなかったたて糸の間に、よこ糸を通すという作業の繰り返しで、織物は作られていきます。
平織の基本的でシンプルなものであれば、一つおきのたて糸を上げ下げしてよこ糸を入れていくという作業で布は織られます。しかし、地と文様に同じ種類の糸を使い、織りによって文様を描き出す紋織の場合、たて糸の上げ下げの指示が 非常に複雑になります。 綜絖は、たて糸1本1本にその指示を伝える装置です。1本の帯に5,000本のたて糸が並んでいれば、綜絖は5,000本必要になります。綜絖に、たて糸を通す作業もまた綜絖と呼ばれます。綜絖の作業は、根気と熟練した 手先の器用さが必要となります。西陣にはこの作業の専門職である「綜絖業」という職業があります。

空引機(そらひきはた)の技
紋織を行うためには、文様に対応するたて糸を選別して引き上げる作業が必要です。しかし数千にも及ぶたて糸の中からその度に持ち上げる糸を選び出していてはあまりに大変なため、同時に持ち上げるたて糸の綜絖をひとまとめにする工夫 がなされるようになりました。しかし、それでも美しい紋織をつくるには、数多くの綜絖の束を操作しなければなりませんでした。そこで活躍した織機が空引機です。
空引機は二人がかりで織る機です。機の上方に花楼板(そらびきいた)と呼ばれる板を渡し、その上に乗った人間が綜絖の束を吊した通糸(つうじいと)を選別して引き上げ、文様に合ったたて糸を引き上げます。そうしたところで、下の機 にいる織り手が、よこ糸を通し打ち込んで織りを進めます。この技術は中国から伝えられたものです。板の上にいる引き手と織り手は息の合う一組で、掛け声をかけて調子を合わせ、時には歌など歌いつつ織っていたといわれています。

ジャカード
空引機によって生産されていた紋織物を、一気に近代化して量産体制に導いた発明がジャカードです。ジャカードは空引きを行っていた人間の代わりに、紋紙という紙を使って、綜絖を制御するシステムです。どの通糸をいつ持ち上げるかを、 紋紙にあけた穴を使ってコントロールするのです。この紋紙があれば文様のデータは保存され、簡単に再生することができます。
紋紙の指示は機の上部についているシリンダを通して通糸や綜絖に伝えられ、たて糸が操作されます。こうして人間の記憶と手で行っていたことが、紋紙とジャカード装置に変わっていったのです。この紋紙は、1本の帯で、簡単なものでも 8,000枚から最高20,000枚は使われます。