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1、綴(つづれ)
帯や壁掛け、あるいはフランスのゴブラン織りなどによって、広く知られている織物が綴です。織り手は自分自身の爪をノコギリ状にけずり、その爪を使ってたて糸の間に通したよこ糸を掻き寄せて織るため、綴は「爪掻き」「爪綴」とも呼ばれます。
たて糸の下に置かれた図案に合わせ部分ごとに織り進める様子は、あたかも色糸で絵を描いているかのようです。同じ図案でも織り手の絵心や技術、思い入れなどが、織り上がりに違いとなって現われるのは、綴が糸一筋にいたる細やかな表現ができる 織だからです。複雑な紋様になると、1日かかって1センチ四方しか織れないということも少なくありません。 綴の基本的な構造は、たて糸とよこ糸が1本づつ交互に浮き沈みする平織と同じです。ただし、たて糸どうしの並ぶ間隔よりもよこ糸の方が3倍 から5倍も密に織り込まれるため、たて糸はよこ糸に包みこまれるような状態になります。その結果、織物の表面はよこの色糸しか見えず、図柄はモザイクのように表現されます。

2、緞子(どんす)
金襴緞子(きんらんどんす)の帯と歌われたことから、誤解されることが多いのですが、金襴と緞子は別々のものです。緞子は金襴とともに鎌倉時代に中国から舶来し、以後南北朝、室町時代を通じて盛んに輸入されました。その内の優れた品の幾つかは 、名物裂(めいぶつきれ)として現代まで大切に伝えられています。
中国渡りの緞子は大変珍重され、掛軸の表具、茶入を保護するための袋、小袖や袴などに盛んに用いられました。江戸時代初期に、日本で緞子が生産されるようになった後も、しばらくの間は緞子はまだまだ珍貴なものでした。緞子は主として男性のものと されていたため、女性の衣服や帯に用いられるようになったのは元禄時代頃からでした。その後安永、天明時代以降から緞子は女帯として一般化し、明治10〜20年代には全盛期を迎えました。
緞子は朱子織の表の組織と裏の組織の組み合わせで文様を織り出します。同じ織り方のものに綸子(りんず)がありますが、予め精練や染色された糸を使って織ったものが緞子です。先染め糸を使う緞子では、たて糸とよこ糸を異なる色にすることで、色彩 的にも文様をわかり易くすることができます。一方、織り上がったものに精練や染色を施したものが綸子と呼ばれます。

3、朱珍(しゅちん)
朱珍は朱子織の地を作っているたて糸とよこ糸以外に、絵緯(えぬき)と呼ばれる多彩な色のよこ糸を使って文様を織り出した織物です。もとは中国で明(みん)時代に織り始められたものです。日本では室町時代末に、中国のものを手本に始められ、 江戸時代に入ってから盛んに織られるようになりました。やわらかくツヤがあり、しかも色美しく文様が織り出されている華麗さが喜ばれ、江戸時代の初めには上流社会の贈答品として非常に人気がありました。
その後江戸時代中期には朱珍は庶民にも広まり、中国風の艶やかで華やいだ雰囲気が愛好され、武家や町人の間で帯や袋物として、武家女子の打掛として盛んに用いられるようになりました。その様子は井原西鶴の「好色一代男」や「西鶴俗つれづれ」 などにも描かれています。