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「絹通信#24」より 最近、竹材での流通のネットワークに新しい動きがありました。今までは竹材店から竹ベラを購入、それを竹林で切り出す職人の顔を見ることはできませんでした。竹筬羽に適した竹材を、竹材店を通し間接的でしか現場の職人さんに伝えてもらうことができず、直接話をして伝えることは不可能でした。それが1人の会員の努力により可能になり、丸竹の状態ではありますが、入手できるルートが地元の岐阜県で見つかりました。竹質の問題はこの職人さんとの話でクリアーできると思いますが、竹ベラに加工する新たな課題が生じました。 良質で最適な竹材を入手することが大変困難になっている現状は「絹通信」で何度かお伝えしていますが、その要因は竹林に人の手が入って整備されていないこと、竹林が荒れていることです。その竹林より山竹で3年?5年の真竹、節間35cm以上、表皮のキズのない、そしてシミのない、竹の組織の密なかたい竹を、虫の入りにくい11月から1月頃までに切り出せる竹切り職人さんの存在なくしては良質で最適な竹材の入手は不可能です。今まで入手できていた九州・福岡県の竹材店の竹材が、半数が幅不足やキズ・シミで良品といえるものは約50%、改善をお願いしても、最後のご高齢の竹切り職人さんという竹材店のお話し、改善ではなく、毎年悪くなっている現状です。その結果、現在は京都の竹材店、奈良のNPOの竹材、そして今回の岐阜の職人さんによる竹材の現物を購入し、竹筬羽として最適な竹材は竹ベラではなく、丸竹または長尺の竹ベラ状態で購入、竹ベラ加工は今のところ当研究会でということになっています。竹材店に加工を依頼する方法もありますが、九州の竹材にくらべ、1枚の糸ベラの価格が5倍になる現状です。 そこで竹材加工機械の問題が生じます。幸いなことに今回出会えた岐阜県の竹切り職人・岡さんの紹介で山口県の竹材加工メーカーを訪ねることができました。そのメーカーの竹材加工機械部門は新しい機会の注文のない休眠状態、特別に加工製作した機械で武雄の編物針を加工する竹材加工部門が稼働しており、丸い棒針と薄い竹筬羽という形状の違いはあるものの、目指す精度、加工方法は工程上、非常に近く、「百聞は一見にしかず」で、有意義な一日でした。まずは丸竹を幅と厚みを指定通りにでき、二つ割りまで加工できる機械を発注、次は「竹剥ぎ機」による銑引きの機械化を再度、相談にのっていただき、機械化できるところは機械化して竹筬復活を目指したいと思います。 (2012.02.21 下村輝 記) 「絹通信#23」より 2011年11月の横浜・シルク博物館での第6回「試作竹筬と織布展」も無事終わりました。関東方面での竹筬展は一昨年の八王子展、昨年のシルク博物館、今回で3回目、来場者の皆様の関心は、出展反物や織布をご覧になり、竹筬製作工程や竹筬研修のことから、いつ竹筬が入手でき、使用可能かという現実的なことになりつつあります。研究会の実力が、もう一歩で最終目標の染織産地の竹筬製作に挑戦できるところまで来ていることを考えれば、皆様のご要望は当然で、ここ10年は新しい竹筬は製作も提供もされていませんでしたので、染織産地から、いよいよ古い竹筬での組み替えの要望が来て、組み替え修理はお受けしておりますが、いよいよここ1年で新しい竹筬を提供できないといけないとの思いで、良質の竹材が入手できた時点で、最終目標の染織産地のプロの職人さんの目と手による合格がもらえる竹筬に挑戦、結果を出し、竹筬を復活し、再び普及させたいと思います。試作竹筬での試織も進み、いろいろな評価と要望も多くいただきました。以前の試作竹筬は10枚に1枚の割合で羽割れが生じ、ご迷惑をお掛けすることもありましたが、最近の試作竹筬は今のところ1枚も割れは生じておりません。研修を重ね、経験を重ねたことで、今まで気づかなかった道具の欠点、手順の誤り、経験や知識の不足、竹材の良否など、一つずつ解決してきたことが今につながります。 助成金の応援も芸術文化振興基金から、もう少しの応援で何とか素人研究会がプロの研究会になるという期待で、直接国の文化財保存技術保存事業に認定していただき、国庫補助金学も振興基金の1.5倍の600万円、竹筬研究会は近い将来の竹筬復活をめざし、日々の研修を重ねていきます。そして、併せて竹材から竹筬製作、使い手の染織家、染織産地の皆様までの新しい竹筬の流通ネットワークを構築することは、竹筬製作の技術習得と同様、今後の重要な課題であり、この両輪が上手に機能してこそ、竹筬製作にかかわる職人さん達の生活が維持でき、日々技術が向上でき、より良質な竹筬が提供できると考えますので、今後は竹筬の製作技術はもちろんのこと、より広い視野での研究会の活動を進めていきたいと思います。 (2011.12.14 下村輝 記) 「横浜展」 2011年11月23日(祝・水)?27日(日) 第6回「試作竹筬による織布展」 ー甦らせるぞ・竹筬ー ※無事に終了いたしました 横浜市 シルク博物館 (入館料必要)にて http://www.silkmuseum.or.jp/main/index.html 内容:試作竹筬による織布「作家、会員」 会員製作の竹筬 竹筬製作工程と道具 外国を含む様々な竹筬 会員による実演と解説 竹筬の診断と修理(預かり修理は実費) ■試作竹筬による織布の出展予定者(敬称略) ・沖縄県宮古織物事業協同組合 ・神樹工房:神里佐千子(宮古上布・沖縄県宮古島市) ・新垣幸子(八重山上布・沖縄県石垣島市) ・花城キミ(沖縄県小浜島) ・西筋ヒデ(沖縄県多良間島) ・上原美智子(沖縄県南風原町) ・大城拓也(沖縄県南風原町) ・大城廣四郎織物工房:大城一夫(琉球絣) ・平良道子(久米島紬・沖縄県久米島) ・桃原禎子(久米島紬・沖縄県久米島) ・鹿児島県大島紬指導センター(奄美市) ・遊生染織工房:築城則子(北九州市) ・甲木工房:甲木恵都子(郡上紬・福岡県那珂川町) ・小柳裕子(博多献上着尺・福岡市) ・松枝哲哉・小夜子工房(久留米絣・福岡県) ・都機工房:志村ふくみ・洋子(京都市) ・志賀松和子(京都府和束町) ・丹波布伝承館(兵庫県青垣町) ・手織り工房・和:磯緋佐子(名古屋市) ・間瀬邦子(愛知県豊田市) ・小林佐智子(愛知県武豊町) ・原千絵(岐阜県郡上市) ・薦田綾子(山梨県北杜市) ・宗広尚子(あしがら紬・神奈川県南足柄市) ・佑工房:佐伯恵(東京都) ・唐仁原ますみ(川越唐桟・さいたま市) ・山田春子(川越唐桟・川越市) ・手織の仲間さくら(千葉県佐倉市) ・小室正子(茨城県水戸市) ・繁藤道子(茨城県小美玉市) ・宮本里子(茨城県土浦市) ・小峰和子(埼玉県狭山市) 会員作品 約10点 ■会員による筬羽作り実演と解説 10:00?11:00、13:00?14:00 ■竹筬の診断と修理 ☆会場に竹筬をご持参ください☆ 11月25?27日 13:00?16:00 旧・日本竹筬工業(株)技術者である大橋滋さんによる古い竹筬の診断(筬羽差換え・筬組替え) ※その場での修理(羽の差換え)以外は、実費となりますのでご相談ください ■ ビデオ上映 旧・日本竹筬工業(株)の竹筬製造 筬作り研修、沖縄などのワークショップの様子 ■ 主催:日本竹筬技術保存研究会(竹筬研究会) 後援:横浜市経済局 「絹通信#22」より 9月7日付で申請していました文化庁の平成23年度国宝重要文化財等保存整備費補助金の決定が10月初めに出ました。今回の事業名は文化財保存技術保存事業。文化財の名称は文化財の保存技術「竹筬製作・修理」および選定保存技術「杼製作」で、その目的は手機の必須の道具である「竹筬」の製作技術及び「杼」の製作技術を伝承し後世に伝えること。その内容は(1)伝承者の養成、(2)研修発表会、(3)記録の作成及び刊行、(4)原材料・用具の確保、(5)関連技術事業(杼製作技術の伝承者の養成)と多岐にわたり、国庫補助金額も600万円、その期待度の大きさに会員一同、心引き締め、心新たに日々研修に励み、期待に応えたいと思います。 10月号でお知らせしました当研究会の技術修得度はほぼ90%、今回の決定はあと少しの10%をがんばれとの国のあと押しだと思います。一番重要な竹材は最良の時、11月に入り京都の竹材店と充分打ち合わせ、切り出してもらいます。奈良の竹材は11月7日再度訪問し、良い竹材に育て、いずれ入手できる体制作りをいたします。最近の竹筬羽製作は豊田義雄さんによる一番きびしい大島紬用の基準で検査していただいており、なかなか合格がいただけない状況なのですが、会員の日々の研修を重ねることでクリアーできると信じております。 第6回の横浜展、第7回の地元岐阜展は、今回の補助金で開催、ぜひお出かけいただき、竹筬の現状と多くの皆様に試織していただいた織布も併せてご覧いただきたいと思います。 (2011.10.24 下村輝 記) 「絹通信#21」より 現在、当研究会の竹筬制作の技術修得度はほぼ90%、あと10%は日々の研修技術を積むことで技術的にクリアーできる段階に来ていると思います。しかし、今クリアーすべき最大の問題、それは「絹通信#20」でも述べた原料の竹材3万8千本の内、良とする竹材は半数弱、あまりの結果に受け取ったのは8千本、3万本は返品し、再検査をお願いし、8千本も検査中という状況です。現在、研究会では以前より当たっておりました京都嵯峨野の竹に加えて、奈良の竹も検討することになり、先日現地調査にまいりました。京都の竹は質的に手応えを感じる竹材で発注することになりました。奈良の竹はNPO法人が管理されている竹林で、じっくりと良い竹林に育てないといけません。今は良い竹材が入手できたという条件付きの状態で、結城や宮古、越後といった文化庁が指定されたプロの職人さんの染織生産地の試作竹筬に挑戦し、一日も早く結果を出したいと思っています。 8月に入り、具体的な動きがありました。23年度の国庫補助事業に申請する書類を竹筬研究会にも提出するよう連絡があり京都府教育庁指導部文化財保護課を通して、文化庁へ申請いたしました。竹筬研究会が国に直接に認知され、また一歩前進した、そんな思いで会員一同、竹筬復活と技術伝承をめざし、心新たに日々の研修に励みたいと思います。 (2011.08.17 下村輝 記) |