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絹糸は繭から作られます。 その繭は天の虫・蚕(カイコ)が作った自分の家です。自分自身を守る蛋白質の天然繊維、それを人が利用させてもらっています。 その自然の長い繊維の状態で、今、可能な限り自然な形で製糸さんに糸にしていただき (四条繰座繰製糸や横挽き座繰製糸)、その糸をねん糸して、全国各地の染織を なされている方達に絹糸を届ける仕事をしています。そして、繭からの実際の糸作りや真綿作り、 真綿からの糸作りなど、繭の事、虫の事も含めて原点の事を知ってい ただき体験していただく事も私の大切な役割り、そんな気持ちでこの絹糸の仕事を続けていきたいと思います。絹糸の「より」、その使い方も含めて、染織家の方々に 絹糸を提供する仕事に携わっている。さらに現在は、途絶えかけた竹筬の復活と技術の伝承を目指して「日本竹筬技術保存研究会(通称竹筬研究会)」を主宰している。 個人的レベルでは、撚糸器を初めとする各種織り道具の開発、職人技術の伝承と継続を目的とした活動してます。



絹の糸作り入門 ― 生糸・玉糸・紬糸

その手法と現状 上

家蚕と野蚕

 絹糸は繭から作られます。その繭には、人が屋内で桑の葉を与え飼育している家蚕種と、人の管理は加わりますが、文字通り野生の蚕、桑の葉以外のクヌギなどを食樹 とする野蚕種があります。野蚕種の代表的なものには、中国の柞蚕、インドのタサール蚕、ムガ蚕、日本の天蚕などがあります。今では飼育過程の大部分が、人工飼料に よる養蚕が主流になっている家蚕は、白繭がほとんどですが、最近は黄繭の「ぐんま黄金」や緑繭系の「いろどり」なども飼育され、製糸されています。また群馬県を中 心に白繭の「新小石丸」、「ぐんま200」などの蚕種も特徴のあるブランド生糸として、普通蚕種(錦秋×鐘和、春麗×嶺月など)とともに飼育され、製糸されています。
  野蚕では白繭はエリ蚕のみといえ、ほかは茶色の繭のものがほとんどです。中には天蚕のように緑色の繭や、インドネシアのクリキュラという金色の繭もありますが、 茶色の繭以外の色素は大変弱くて退色します。野蚕は屋外で繭を作り、防水性が高いため、家蚕と比べ繰糸や染色が大変で、機械化が困難です。中国柞蚕は、以前は、 家蚕系の代用で安価な絹糸でしたが、最近は、いわば家蚕はブロイラー、野蚕は地鶏で手作り糸というイメージが定着し、希少性で家蚕より高価な糸になっています。 日本の天蚕は「絹のダイヤモンド」と呼ばれ、生糸1Kgが70万前後もしますし、インドのムガ蚕の生糸も家蚕の4〜5倍の価格です。柞蚕糸は、価格以前に、入荷が年々むつかしくなり、希少性の高い糸になりました。