戻る 次へ


麻の話_はじめに


天然繊維はいずれも人類の発生とともに、自然発生的に使われてきたと考えられます。考古学的な調査によれば、木綿はインドと南米では4000年以上前から栽培、使用されており、また亜麻は古代エジプトで使われており、 そして羊毛と亜麻は旧約聖書に記述があります。絹についてもシルクロードという言葉でよく知られているように大変古くから伝えられています。日本の代表的な麻である苧麻と大麻は、縄文時代に使用されていた痕跡があります。日本では地理、気候の条件から世界の他の地域では使われていた木綿は、ようやく江戸時代になって普及したものであり、亜麻は明治になってから導入されたものです。ただし絹は、古く弥生時代には朝鮮半島から伝わっていま す。羊毛は製品としては奈良時代には伝わっていますが、日本での羊毛の生産は定かではありません。これらのことから、日本では江戸時代以前に使われていた衣料用繊維は基本的には、苧麻、大麻と絹ということになり、なかでも庶民の繊維は麻であったということになります。現在では麻のイメージは夏用の涼しい素材ですが、 日本での厳しい寒さを考えると、麻布をどのように使っていたのか、少し不思議な感じがします。当時の製織技術からすると麻を密度高く織る事は困難であり、現在一般に目にする麻布よりも、かなり荒目のものであったと推定 されます。ではどうやって寒さをしのぐのか、答えは重ね着ということになります。
繊維製品が現在の様に大量に安価に供給されている時代には、創造する事が難しいですが、手紡ぎ、手績み(麻を細かく裂いて紡ぎ、撚り合わせる)の糸造りを体験された方は、その労力がどれほどのものか、良く理解できると思 います。すべてを人の力で、糸を作り、染め、織るということは、着るものが本当の意味で労働力の塊であり大変貴重なものと当時は考えられていたはずです。使い古した服、布はボロボロになっても簡単には捨てずに、すべて重 ね着の材料として使われていたと想像されます。