戻る | 次へ |
多 摩 織 |
平安時代初頭の文献には、この一帯は生糸や絹の産地として記されています。「桑・蚕」そして「絹糸・織物」と共に歩み、長い歴史の中から作り出された絹織物を多摩織と呼びます。絹織物は、用いられる絹糸の形態はさまざまです。繭を解いて糸にした「生糸(きいと)」・2匹の蚕によって作られた繭を解いた節のある糸「玉糸(たまいと)」・繭をほぐして作った真綿を紡いで糸状にした「紬糸(つむぎいと)」などがあり、用いる糸によって、仕上がりの風合も異なります。さらに、これらの糸に精練・染色を施し、織技法と共に巧みに使い分けることで、多彩な製品が作りだされています。この様な手法を用いて、多摩織には5つの品種(お召、紬、風通、変り綴、綟り)を生み出しました。 1、 お召織 緯糸(よこいと)に、1mあたり3000回という強い撚りをかけた糸を使い、そして右撚りの緯糸と左撚りの緯糸を交互に使用する事で、糸の撚りが戻る力を利用しシボを作り出しています。これによって細かいシボ(しわの1種)が表面に現れます。使用する緯糸は、下撚(したより)した後、わらび粉やひめ糊を手作業でもみ込み、八丁撚糸機(はっちょうねんしき)で右撚と左撚とに同時に撚りをかけます。また織り方にも種類が有り、先染めまたは先練りの平織・綾織・朱子織(しゅすおり)と呼ばれます。織った後、シボを浮き上がらせるために湯の中でもみ、幅出しして仕上げます。 2、 紬織 微妙な凹凸から生まれる風合が特徴です。この風合は、緯糸に玉糸あるいはつむぎ糸を使うことによって作り出されます。 3、 風通織 織地が二枚重ねで模様を表現している織物です。表面の模様の色が、裏面の地色に織り分けたリバーシブルに特徴があります。 4、 変り綴織 綴織(つづれおり)とも呼ばれる朱子織が変化した織物です。多色の緯糸を使って、絵のように複雑な模様を織り出しています。 5、 綟り織 経糸どうしが絡み、緯糸と組む事で糸と糸の間に隙間が出来る織物です。レースのような透明感で、夏の着物や帯などによく用いられる「紗」が代表的なひとつです。 現在、多摩織として八王子市・あきるの市の一部の地域で織られています。八王子は「桑の都」と呼ばれ、江戸時代には定期的に絹市が立ち、地元だけでなく周辺地域からも生糸や繭、絹織物などが集まりました。八王子織物は、明治時代に入るとジャカード機や力織機を導入するなどして近代化を図り転身に成功しました。機械化の進む八王子織物の中で伝統の「多摩織」て昭和55年に国の伝統的工芸品に指定されます。 「伝統工芸品としての特徴」 ・お召織にあっては、次の技術又は技法により製織されたしぼ出し織物とすること。 (1) 先染め又は先練りの平織り、綾織り若しくは朱子織り又はこれらの変化織りとすること。 (2) お召糸に使用する糸は、下よりをした後、わらびのりその他の植物性糊料を手作業によりもみ込むこと。 (3) お召糸のねん糸には、八丁式ねん糸機を用いること。 (4) しぼ出しは、「湯もみ」によること。 (5) たて糸の密度は、1センチメートル間100本以上とすること。 |