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この二点を見落として、一Kg一〇〇万円の超高価格のみで、繭・糸・織物の流通の事を考慮に入れずに、各地の天蚕繭飼育は県や町の指導のもと、農業補助事業として始まっています。 補助はいずれ切れてしまいます。
穂高町は天蚕の町として、町の飼育事業事業として成り立たなくても、町のアピール、天蚕の町という広告効果を加えて総合的に評価した時、天蚕飼育は町の事業として成り立ってい ると思います。しかし他産地は、第二の穂高を目ざし、希少性を生かしての町起し、村起しを目ざすのか、繭生産を事業規模の大きさまで目ざすのか、繭より糸、糸より織物へと、付加 価値のある物づくりを目ざすのか、価格の事を含めて現在の繭生産地は、その根本の問題にかかわる時期に来ていると思います。

(ロ)繭飼育
 原則的に年一回飼育の天蚕は、災害により収繭量が予定の半分だったり、全滅という事が、起こる可能性があります。
 鳥取の場合も一九八八年度は予定量の60%と、家蚕とは違い自然相手の大変不安定要素の多い事業です。そこで、岩手大学農学部の鈴木幸一先生の卵の人工ふ化の研究の実用化や、 千葉県や神奈川県の蚕業(さんぎょう)センターで実験・研究されている稚蚕期(ちさんき)の人口飼育飼料の安価な方法での確率がまたれます。  
 また、他産地との卵の交換や技術交流、情報交換を行なわないで、一産地だけでの広がりのない天蚕飼育は、虫の問題はもちろんの事、天蚕の全国的な消費の拡大に大きなネックになると思います。 鳥取のはその点を提案したのですが、繭生産者の意識を改革していただく必要性を感じました。現場の方がむつかしければ、県レベルの指導で、交流をさかんにされるのがより良い方向だと思います。

(ハ)繭の保存
 冷凍保存した天蚕の卵の出す時期を調整して、三回程度飼育する事は可能で、実験もされています。しかし、繰糸はやはり冬の間の仕事となります。そこで、殺蛹(さつよう)し蛾になって出てこない状態で、その時期まで繭保存が必要になります。
 家蚕は熱風乾燥による乾繭保存が一般ですが、 私の場合、岡谷で家蚕糸を生繭座繰していただいている経験と、製糸さんのアドバイスにより、天蚕も生繭座繰が一番良いと思うのですが、繰糸時期と時間の制約から、殺蛹と保存をかねた方法を選択 する必要があります。
冷蔵保存は約一ヵ月間で、繭が乾燥しないように注意して保存すれば理想だという事です。この方法には、冷蔵庫の設備と約一ヶ月という制限が有ります。  
 冷凍保存による殺蛹と保存は、長期間の保存が可能で、小谷次男さんの意見で鳥取ではこの方法が取られています。千葉県の蚕業センターの実務ハンドブックでも、この保存方法がベストだと報告されています。
 乾繭保存の場合は、乾燥機を使っての殺蛹、乾燥保存ですが、シイタケの乾燥機で代用するとか、岡山のように専用の乾燥機を使用している所もありますが、その乾燥条件をどのようにコントロールす るのがベストか、というデータはほとんど報告されていません。その事が、次の繰糸条件に影響すると私は考えています。