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1. 天蚕の産地

日本の天蚕業は、長野県有明地方で始まったと言われており、今でもそうですが穂高町がその中心で、日本の天蚕産地のリーダーであり目標だと言えます。
農水省の一九八八年における資料によると、全国各地の天蚕飼育産地は、北から岩手、山形、茨城、群馬、千葉、東京、神奈川、長野、新潟、富山、石川、岐阜、 滋賀、兵庫、鳥取、岡山、愛媛、高知、佐賀、宮崎と多くの県で、規模の違いはあれ、研究、飼育されており、最近の農村の村おこし運動や地域振興の一つとして、 農水省の高付加価値型農産物として天蚕が国の方針としても積極的にすすめられている現在です。
新しく加わる動きをされている県もあれば、すでに撤退した所もあり、村おこし、地域振興にはほど遠い天蚕産地の現状と言えます。


2. 天蚕(ヤママユ)の特徴

天蚕のキャッチフレーズは「繊維のダイヤモンド」といわれます。これは家蚕の数十倍もの価値で繭が取引され、全国の収繭量から計算しても、100sも生産で きない異常ともいえる希少価値からです。
天蚕は日本原産の野蚕といわれ、全国各地に生息しており、主にクヌギ、ナラ、カシワなどを常食としています。年に一回だけ発生する一化性の虫で、春に卵から かえった幼虫は緑色をしており、四回脱皮を繰り返し、約五〇〜六〇ほどで黄緑色の繭を二〜三日かかって作ります。そして、その繭の中で蛹に変態し、夏眠します 。その後、約四〇日ほどで蛾になり、交尾して約二百粒前後の卵を産みます。卵の状態で、冬を越し、翌春に幼虫になります。
 繭は家蚕の三倍ほどの約六gの重さで、中の虫が大きく、繭層の割合は家蚕の二〇%にくらべると、九%程度と大変薄い繭といえます。その分、自然の雨露の中で も、繭は中の虫を保護するための無機質やロウ分などを多く含んでおり、その組成も家蚕とはちがっており、繰糸や精錬などの折に独自の技術が必要です。
 糸の繊度も二倍太く、断面は扁平な三角の形です。繭糸の長さは家蚕の一二〇〇m以上にくらべ、約半分の六〇〇m程度の短い繭糸です。年一回の発生、繭層の薄さ による生糸歩合の低さ、不純物による解じょ(糸のほぐれ)効率の悪さが繰糸のむつかしさにつながり、異常な希少性と超高価格の原因になっています。
 生糸は淡い緑色で、大変伸びやすい伸度約三〇%の、水や蒸気により大変縮みやすい糸です。精錬した練糸は、淡い黄色で、練り減りは約一五%と家蚕の二四%程度 に比べ低いのですが、毛羽立ちやすい糸です。嵩高(かさだか)で軽く、独自の美しいかがやきがありますが、最大の特徴は、繭や糸の特性を超えた、異常に少ない 糸の流通量と超高価格と私は思います。