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柞蚕のセリシン率は約9パーセントで、家蚕の約25パーセントに比べ大変練り減り率の少ない絹糸です。インドのタサール蚕はその糸の作り方で、ギッチャー糸、手紡ぎ糸、 繭房を手紡ぎしたナシ糸、紡績糸と繭の特徴を活かした未精練のナチュラル色で、糸味のある絹糸が入荷しています。

2) 天蚕
 我国原産の野蚕ということですが、山繭とも呼ばれ、中国でも飼育され、生糸も輸入可能です。中国産の天蚕も無視はしてはいけないと思います。幼虫も繭の表皮(内層まで緑色ではありません)も生糸の色も大変美しい緑色で、 全国各地に生息しています。食樹は柞蚕とほぼ同じ、クヌギ、カシ、ナラなどで、その特性も色彩以外は柞蚕に準じます。セリシン率は約16パーセントと柞蚕と家蚕の中間で、繭と生糸の美しい緑色は時間と共に退色、また精練に より洗い流され、淡い黄色を帯びた光り輝く真綿と絹糸となります。信州安曇野市の穂高町での飼育が有名で、その希少性と美しい輝きから「繊維のダイヤモンド」と言われ、1キロの天蚕生糸が60万~70万円と異常な高価格な ので、20数年前、全国各地の町や村が地域おこしの目玉として飼育を始められましたが、飼育の手間と特に繰糸の困難さ、加えて、あまりの超高価格のため需要が拡大せず、糸市場も縮小、糸販売の流通も確立できず、糸在庫の結果 、ほとんどの地域が撤退しています。

3) ムガ蚕
 インド・アッサム地方にのみ生息し、茶系統の繭を作ります。炭酸ソーダ溶液で煮繭し、鍋のなかで必要量をお湯にて2人1組で繰糸する昔ながらの1条の胴繰りとリング撚糸機使用の4条の撚糸繰糸があります。煮繭し、繰糸す るうちに蛹の色素で茶色の繭糸が、金茶色の光沢を帯びた輝く色へと変化し、ゴールデン・ムガと呼ばれる希少性のある野蚕糸になります。染色性は低く、糸本来の金茶色を生かしたサリー用の布帛が織られ、輸入されていますが、生 糸での輸入は殆どされず、現在は1キロが5万円前後と高価な糸です。

4) エリ蚕
 ヒマの樹も食することからヒマ蚕とも呼ばれ、中国・インド 等で飼育されている野蚕で、野蚕では珍しく白繭です。ふかふかした綿状の繭で、家蚕・柞蚕・天蚕・ムガ蚕のように1本の糸として繰糸はできず、短い繊維に裁断して 絹紡の原料とし、絹紡糸を作ります。繭精練して真綿にして真綿紬糸にされる事は殆どありません。キャッサバ芋の葉も食し、熱帯でも飼育できることから注目されています。エリ蚕も多孔性で、家蚕とウールの中間的な風合いのある 絹糸ですが、今でも家蚕の代用的な使われ方で、絹紡糸の原料として使用、エリ蚕の絹紡糸としての実績は殆どありません。